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遠野の流れ


 遠野の渓は、人間の生活に融和した優しさを兼ね備えている。
たゆたうそのみなもには、野菜を洗う老い人や田子の姿が季節を通じて映し出されている。里川の原風景がここにあるといっても過言ではない。
 しかし、遠野の流れは、どこかで人を受け入れない静かな表情も私たちに示している。
 源流部に広がる真っ白な花崗岩の川底。そこから飛び出してくる白っぽい鱒たちの魚態。厳夏の中、流れを伝って吹き抜けるひんやりとした渓風。ムシと鳥の鳴き声と木々のざわめきが同化した、妖精たちのささやきのような自然音。それらを崇めるように建てられている古の神社。どれをとっても神秘的な現象を予感させる。
釣り上れば上るほど、畏怖の念が釣り人に去来する。
 遠野の流れはいつの日も「人間の抱擁と拒絶」という二律背反な表情を持っている。この流れはおそらく、どこを探しても見当たらないだろう。この神秘的な流がたまらなく好きである。
 遠野の渓を訪れるたび、私はこの流れに畏敬の念を抱きながら、ロッドを振り、流れに佇んでいる。
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