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気仙川で考えたこと



◆初老のフライマンとの出会い
 今年のゴールデンウィークに旧友と気仙川へ釣行した際、10年来気仙川へ通っているという初老のフライマンに出会った。その方は、気仙川の隅々まで熟知しており、ちょうどその時も下流で尺岩魚を上げてきたと話していた。気仙川の変貌についても語り、10年前と現在ではかなりの変貌を遂げたこと、水質や景観がかなり悪化していることを話し、その場でひとり嘆息していた。

 気仙川の景観に惹かれ早朝から足を運んだ我々は、この話しを聞いてげんなりとした。「せっかく楽しんでいる時に気勢を削ぐ話しはしないでほしい」という率直な気持ちが湧き上がってきた。おりしも小型の岩魚が爆釣していた時でもあった。
 ただ、数日後、初老のフライマンの話しを思い返してみると、否定できな点が多々あると感じられた。
気仙川を歩いていると、川底の石についている黒っぽい苔やゴミが多くなっていることに気づかされたし、苔に足を取られて転びそうになったことも結構あった。山中の清流ではこのようなことはあまりないことである。確かに水質は悪化しているのであろう。

◆深刻な富栄養化
 水質悪化の原因として思い浮かぶことは、富栄養化の影響である。この事象は、琵琶湖や霞ヶ浦をはじめとした多くの湖沼や河川で深刻な問題となっている。生活雑排水や工場廃水、農業廃水などの流出が原因となり、河川の生態系へ大きな影響を与えている。排水に含まれる窒素やリンがその原因だと言われ、これらが水中の植物性プランクトンや藻類を急激に増殖させ、生態系を破壊しているのである。
 この現象は、下水施設の整備が行き届いていない過疎地=清流域にとっては深刻な問題である。過疎になればなるほど、下水道未整備率が高くなっており、生活雑排水が川にダイレクトに排出されている地域も少なくない(富栄養化は下水施設が完備された地域でも発生する場合がある)。

◆下水道普及率と過疎化問題
 下水施設の普及率は全国的にばらつきが生じ、都市部と農村部の格差が拡大している。
 平成12年度末の下水道普及率の全国平均は62%であり、その中のトップは東京都の97%である。一方、東北地方の普及率は全国平均よりも低く、宮城県の65%を頭に30%代にまで落ち込んでいる自治体が大半である。中でも岩手県は35%にまで落ち込み、全国平均の半分近い数値になっている。
 日本では昭和30年代頃まで、し尿は農作物の肥料として施肥されており、便所はくみ取式が大半であった。これが農村部の下水道の発達を遅らせる原因の一つとなっていたといわれている。その後、農業従事者は高度経済成長以降激減し、下水道整備が未発達なまま、農村人口の高齢化、過疎化が進行し現在に至っている。
 平成16年時点で、岩手県59市町村のうち、過疎指定を受けていた市町村は24地域であり、41%の市町村が過疎という状況にあった。しかもそれらの地域の過疎進行は抑えられておらず、下水道整備も進んでいない状況にある。過疎化進行は、地域住民の高齢化(平成14年岩手県老齢人口割合21.47%、全国10位)とその中での独居老人(平成14年岩手県65歳以上の高齢者のみの世帯割合12.5%、476世帯)の比率向上と密接に結びついており、そのことが下水道事業の大きな問題となっている。
 さらに下水道事業には、下水道を建設する費用と下水道を維持管理する費用が必要となり、この費用の一部は、地域住民に負担してもらうことになる。この制度は「受益者負担金制度」と呼ばれ、土地の面積などに応じて算定される。一世帯あたり数十万から百万円近くの費用負担が要求される場合があり、過疎化などにより人口減となれば、一人当たりの負担金も増加する。年金生活者世帯や独居老人世帯などにとって、この制度は、かなりの負担になることは間違いない。

 つまり、過疎化進行問題と下水道未整備問題そして、環境問題は密接に結びついているということがいえる。この事実が岩手の河川水質の悪化と清流の形骸化に強く結びついていることは間違いがない。
 生活レベルの高度化や森林の伐採、ゴミの不法投棄なども大きな要因であるが、政策的な地域活性化の促進、そして地域下水道整備の推進は、水質環境改善にとって大きなプレゼンスを占めている。この問題をどのように解決していくのかということが、今後の水質環境を考える際、私たちに問われてくるのではないだろうか。
特に岩手県にとっては急務な課題である。
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